シリーズ田舎探訪 岐阜県郡上市八幡町
斉藤家母屋外観(正面)
御殿に描かれている牡丹
お内裏様
和雑貨コーナー
お雛様
 岐阜県郡上八幡の市街地、新町通りに斉藤美術館があります。観光名所とされている、やなか三館「遊童館・おもだか屋民芸館・斉藤美術館」のひとつで、昨年の夏に母屋を改装し「町家カフェさいとう」がオープンしました。
 郡上八幡ではひな祭りの季節になると、城下町郡上八幡お雛祭りが開催されます。
町のあちこちで80数軒ほどの雛人形が一般公開され、観光客の目を楽しませてくれます。
 ここで紹介する斉藤家では、江戸時代から現代までの雛人形がずらりと一堂に並べられて圧巻です。
町家カフェでお抹茶などをいただきながら、ゆっくりと雛人形を愛でるのも、この時季ならではの味わいです。
表情豊かな古今雛

御殿付は上方生まれの証拠

 斉藤家で一番古いお雛様は、立派な御殿が付いた古今雛と称される、江戸時代後期に作られたものです。
 そもそも、3月3日の桃の節句に雛飾りをするようになったのは、江戸時代になってからのことだそうです。270年に渡る長い時代の間に、いろいろなお雛様が作られました。
その中で最も豪華な雛飾りが作られたのが江戸時代後期で、上方と江戸で飾り方の違いがはっきり分かれてくるのも興味深いところです。


 上方では御殿が付いたり、飾り物にかまどや台所のミニチュアがあったりします。
江戸では七段や八段にも及ぶ段飾りが行われ、たくさんの箪笥や棚など、雛道具がセットされています。
斉藤家のお雛様は御殿付なので、京都で作られたものと思われます。
現代の段飾り雛人形
江戸時代後期の御殿雛
 
雛人形を愛でる

 特に注目したいのは、さすが江戸時代だけあってか、お馴染みの右大臣と左大臣の他に、裃(かみしも)を付けた侍がお内裏様とお雛様の下手に鎮座していることです。 なかなか時代を象徴しているではありませんか。

 長い年月を経て、ここの雛飾りも完全ではありません。お内裏様の冠やしゃくが紛失していたり、髪のない人形もたくさんあり残念ですが、 200余年もの時を経た人形たちを眺めていると、その時代にどんな人たちがこれらを作り、どんな気持ちで遊んだのかとあれこれ想像するだけで楽しくなります。
人形一体一体の顔の表情やしぐさがとても巧妙で、箒を持ったお庭番など、ひょうきんな表情には思わず頬が緩みます。
 右大臣は大きな眉と顎鬚が真っ白で、結構なお年寄りだと想像でき、威厳と風格をかんじることができます。

 三人官女はどうでしょう。まるで浮世絵に出てくる美人画にそっくり!そして3人とも立ち姿なのはなぜでしょう?
また後ろの屏風は、3枚の牡丹の絵が見事です。ここに芍薬は描かれていませんが、この頃には「立てば芍薬座れば牡丹…」などという大和撫子を代表する俗言葉は、 きっと存在しなかったのでしょうね。

 次に、御殿の建具にも目をやってみましょう。
御殿のお内裏様たちの部屋は畳敷きです。欄間は漆塗りに真鍮の飾り鋲が付き、透かし細工が施されている、といった凝りようです。
御殿の左右には階段があります。その階段の上り際に板塀があり、そこには松と竹が描かれています。(梅を探してみましたが、ちょっと見つからず残念)
 こんな風にひとつひとつを眺めていると、幼い日の想い出とともにいろんな想像が膨らみ、いつの間にか時間を忘れてしまいます。
そして、そこには無邪気に楽しめる不思議な世界が広がって行くのです…。

裃をつけた侍
箒を持ったお庭番風格のある右大臣
浮世絵の美人画を連想させる三人官女
三人官女の後ろに描かれている牡丹の絵
御殿の欄間の透かし細工
板塀に描かれた松板塀に描かれた竹
 
雛人形の歴史

 日本では、源氏物語や枕草子にも登場する「ひいなあそび」ということばからも、雛人形は節句に関係なく、平安時代に童女の玩具として存在していました。 また、3月3日を五節句のひとつである「上巳(じょうし)の節句」「桃の節句」などといい、厄を人形に移して祓う、 厄払いとしての「流し雛」の風習があり、雛人形は二つの流れを持っています。
室町時代になってこの二つの流れが結びつき、公家や貴族の間で人形を飾り祀るようになりました。

 江戸時代になると、二代将軍秀忠の娘徳子が天皇の妃として宮廷に入る際、京都御所で盛大な雛祭りが行われ、それ以降、幕府や大奥で雛祭りが行われるようになりました。
その後、幕府が令の規定の3月3日を五節句の一つに定めたことで、大衆にも広がりました。


 宝暦年間(1751〜1764)以降、京から江戸への文化の移行に伴って、文化・文政年間(1804〜1830)頃には、江戸にも雛人形を飾る風習が浸透して行きました。
上方では宮廷を模した御殿雛が、江戸では雛壇に五人囃子や官女も加わって、段飾りがますます豪華になって行くのでした。

江戸時代明治時代
昭和
現代
 
ドールハウスと雛飾り

雛飾りは日本式ドールハウス?

 欧米にはドールハウスがあります。記録上に残るものは、1558年に南ドイツの公爵が娘の為に作らせたものが最初で、 現存する最古のものは、1161年に作られたもので、日本では江戸に幕府ができた頃になります。
 ドールハウスは、ミニチュアサイズに縮小した家や部屋の中に、生活空間を表現したものです。 小さな家具や道具が愛らしく、日本にもドールハウスのコレクターがたくさんいます。
 このドールハウスの道具と雛飾りの道具は、とても似ていると思えてなりません。
そして、幼い頃に遊んだままごと道具…。女の子の大好きな「ままごと遊び」の原点が、ここにある気がします。
 どこの国でも、いつの時代にも、幼女の遊び道具として今に至るまで存在し続けていることに、新鮮な驚きを感じ得ました。
繭で作ったミニチュア雛飾り
昭和初期に京都で作られたミニチュア土雛(末廣雛)
 
町屋カフェさいとう お雛様展示期間のご案内 狩野派・龍の屏風絵(右の屏風絵と一対) 狩野派・龍の屏風絵(左の屏風絵と一対)
和雑貨コーナー 百人一首の屏風絵

あとがき
 雛祭りは世界にも珍しい女の子の節句です。今の時代も日本の文化として根ざしています。 現代は物の溢れる豊かな時代ですが、日本の美しいもの(しつらえ)、大切にしたいもの(心)がどんどん失われていくような気がします。 それは、大人の責任であるとも思います。
 今回の取材で、「人形を愛でる」「小さいものを愛でる」という行為の中には、昔の宮中・公家社会や、欧米の王侯貴族が、幼女の躾道具として用いたように、 楽しみながら物を大切にすることやマナーを自然に覚えたり、節句の意味を伝えたりする教育の場であることを教えられ、先人の知恵を感じました。
今まで、雛祭りの由来や節句の意味など深く知ることもなかった私ですが、こうしたことを知り日本の女性としての嗜みをしっかり伝えて行く事こそが、私たちの役目なのではないかと思いました。(こぶた)
【参考文献・webサイト】
雛祭り(ひなまつり)|日本文化いろは事典
雛人形のこんな話しってる?
おひなさまの話
ドールハウスの基礎知識




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