シリーズ田舎探訪 千葉県柏市
柏LOHAS(ロハス) つくばエクスプレス沿線のロハスな都市構想と、里山風景としての谷津の環境の中に見るロハス(東京大学柏キャンパスと沼南町地区に残る谷津田の風景)

 柏市は千葉県の北西部に位置しています。東京郊外のベッドタウンとして開発が進むとともに、商業の地域拠点として、特に柏駅前は発展してきました。一方、昨年春に合併した沼南町地区には、今のなお緑豊かな田園風景が広がる地域が見られます。
また昨年は、東京の秋葉原とつくば学園都市を結ぶ「つくばエクスプレス(TX)」が開通。沿線の柏北部地区では、大開発が進んでいます。今年4月には、東京大学の一部の学科が本郷から柏キャンパスに移り、数千人規模の研究施設へ拡大しています。
  このように柏市は、多彩な顔を持つ街ですが、現在の急激な変化の中で何か置き去りにしているような、漠然とした空虚感を抱いている市民も少なからずいます。
  そんな現在の柏市の明と暗を、『LOHAS(ロハス)』という言葉を通してご紹介致します。
LOHAS(ロハス)とはLifestyle of health and sustainability の頭文字の造語。「健康や持続可能性を重視するライフスタイル」を意味しています。1998年頃のアメリカが発祥で、日本では数年前に紹介され普及してきた言葉です。

つくばエクスプレス開通、ロハスな大ショッピングセンター
柏の葉キャンパス駅
環境健康都市園芸フィールド科学教育研究センター
県立柏の葉公園
  昨年TXが開通し、柏市内には「柏の葉キャンパス駅」と「柏たなか駅」ができました。
柏の葉キャンパス駅前周辺には、「千葉大学環境健康都市園芸フィールド科学教育研究センター」や「東京大学柏キャンパス」、 「県立柏の葉公園」などが広がり、それらを中心に現代的な緑あふれる街を目指した開発が進んでいます。 これらの場所は、元は自衛隊の通信基地が広がっていた所で、柏の葉キャンパス駅はゴルフ場でした。 以前は、この地域特有の湿地性の雑木林が広がっていましたが、今はその面影もなく大規模な開発事業が展開されています。
 特に目を引くのは、柏の葉キャンパス駅前に建設中の、大規模ショッピングセンターです。自然環境と健康を優先し、 持続可能な社会のあり方を志向する新しいライフスタイル「ロハス」をコンセプトにしています。
東京大学柏キャンパス
建設中のショッピングセンター
 面積約41,650uの敷地内外に、周辺と調和した豊富な緑地を設け、開放的な施設計画をしています。 また、屋上農園や屋上緑化を施し、植物の持つ蒸散作用による施設全体の空調負荷の低減を図り、氷蓄熱・NAS電池を使った電力主体熱源システムを採用するなど、 エネルギーを効率的に利用するといった環境対応をしています。 他にも、施設内で発生した生ゴミを飼料化・堆肥化し、県内の契約畜産家や農家に提供、そこで生産された畜産物・生花等を販売するなど、 地産地消も積極的に進めて行く予定なのだそうです。

柏駅前の喧噪と若者のためのまちづくり「ウラカシ」
商店街を外れた通り
古い住宅を改装したカフェ
 柏駅はJRと東武野田線との乗換連絡駅として、千葉県内で最も乗降客が多い駅でした。TX開通後も、県内では有数の人でごった返した駅であることには間違いありません。
 柏界隈では、「ウラカシ」という言葉が最近よく聞かれます。数年前は「プチシブヤ」というような表現が一部で言われていました。渋谷や原宿からきている言葉です。そういう意味で柏駅周辺は、若者の街であることに間違いありません。ここ数年の間に、古着屋や美容院などの店舗が増えています。その他に古い住宅を改装したカフェや木造の倉庫を利用したライブハウスなど、新たな展開が見られおもしろくなってきています。
 「ウラカシ」という言葉は、柏の街の様子を説明するのに便利な言葉です。しかし、柏の街をおもしろくしている人たちにとっては、どうでもいい言葉であるようです。なぜなら、彼らは「原宿や渋谷の二番煎じではなく、柏のポップカルチャーを担っている」、と考えているからです。
  柏駅周辺が若者の街になったのは、地理的な要因だけでなく、ある意味マーケティングによる仕掛けも後押ししたのかもしれません。しかしまちを創って行くのは、そこで何かをしたい人たちの想像力と行動力であり、今後の展開もそれにかかっています。

姿を消しつつある環境資源 ”谷津”
谷津を埋め造成された住宅地
谷津の奥 昔、湧水を溜める池であった所
 沼南町地区には、まだ水田や畑、谷津に起源を持つ雑木林で構成される田園風景が広がっています。柏市を含む千葉県北部地域には、関東ローム層の台地が浸食されてできた谷津が地形的特徴の一つとなっており、地名にも多く残っています。

※谷津:浸食により削られた台地に切り込んだ谷。湧水による谷底の湿地と、谷を囲む斜面林とで構成された空間を指す。地域によって、谷地・谷戸とも呼ばれる。

  谷津にはその谷津をつくった水源が必ずあり、その水を利用して谷津の谷間につくられた水田を谷津田と言います。残された台地には畑がつくられ、これら台地上の畑、森林、斜面林、そして谷津田へと繋がる一連の環境は生物の宝庫となっています。多様な生態系を観察する絶好の場所であり、人の営みと自然が共存している貴重な環境資源です。
  しかし、この谷津の環境も都市開発の中で、次々と姿を消しています。谷津を埋め造成された宅地は、豊かな自然に囲まれた生活環境として販売されています。
かつては水利権も含め、地域が一共同体として生きていくためのコミュニティが形成されていました。それは人同士だけでなく、自然との繋がりでもありました。ロハスの中の「sustainability(持続可能性)」を、高い次元で実現していた社会システムです。過去の財産を豊かな自然環境とともに捨て、新しい街は何を目指すのでしょうか?
  柏市街地付近にわずかに残る谷津には、ワクワクする自然環境が広がっています。

創造と喪失と、子供たちに託すべき街の未来
自然の中で遊ぶ子供たち
甲子講の石碑
変わり果てた石碑跡
 沼南町地区の水田地帯を散策していると、子供たちに出会いました。「ヘビとカエルとカメとザリガニを探している」と言っていました。ヘビが最初に出てきたことが意外でしたが、それ以上に、それらが子供たちの身近なものであることが嬉しくなりました。しかし柏の葉地区には、子供たちが泥だらけでカエルやトンボを追い回す場所が計画にありません。

  TX開業前に、柏たなか駅計画地近くの道路沿いに、石碑を見つけました。「甲子講」と書かれた碑は慶応年間に建造されたもので、昔この地域では甲子の日に子の刻まで大黒天を祀る集会が開かれていたそうです。約1年後に訪れるとその碑はなく、土台と案内柱が無惨な形で放置されていました。別の場所に移されたのかも、周辺の整備が終わってから戻されるのかもしれません。
  新しいものを創ろうとするとき、旧いものが犠牲になることは珍しくありません。都市計画で新しい道路を地図上に引くことは簡単ですが、実際その土地にはそれぞれ人の営みがあり、その場所の記憶があります。私たちは新しい街で、子供たちにどのような街の未来を語ることができるのでしょうか?

消費されない街であることを願って
地域の学校で伝承されている「手賀ばやし」
 「スロー」や「ロハス」とは一体何でしょうか?
市内各地に大型ショッピングセンターが建設され、「環境・健康・オーガニック・地産地消」などの言葉があふれています。柏市は宅地開発において、明らかにバブルの様相を呈しています。バブルの果てに何が残ったのか。目先の利益に人は反省を忘れてしまいます。
  現代は、言葉がどんどん消費されて行く時代です。その言葉とともに街をも消費してしまっていないでしょうか?
柏は渋谷でも原宿でもなく、東京郊外の一衛星都市でもなく、【柏】であることをもっと意識すべき時期であるように感じます。


あとがき
 本当の「ロハス」とは、地域コミュニティの人々の繋がりなくして実現できるのでしょうか?表面的なシステムづくりだけでなく、人の生活を成立させている本質を追求して行かなければならない気がします。それは、開発の中で蔑ろにしている部分にこそあるのでは…と思っています。
ちょっと過去の生活を省みれば、そのヒントはいくらでもあり、それを取り戻す場所もまだ残っていると思います。柏の過去と現在を見つめていけば、他にはない新しい柏の姿を創造することができるのではないでしょうか。後は行動力。
  子供たちには、是非ともその可能性を持った街と、それを考える場所を残してあげたい。それが私の願いです。


今回の特集は、千葉県柏市の地域スタッフmazさんです。
mazさんのプロフィール
全国的には柏レイソルで有名な街、柏。でも、それだけじゃないよ!というところを紹介していきたいと思います。いろんな人との関わりの中で得ることができる生きた情報が、皆さんの柏という街に対する新しい発見につながっていけば幸いです。よろしくお願いします。




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