シリーズ田舎探訪 静岡県下田市
唐人物語の舞台を訪ねて
  サザンオールスターズのアルバム『さくら』所収の『唐人物語(ラシャメンのうた)』は、今から100年ほど前の実在の人物をモデルに作られた歌だそうです。
黒船の来航で揺れる日本とアメリカとのはざまで起きた悲劇は、その後演劇や舞台、歌舞伎などでも演じられました。
その主人公「お吉」さんの生涯をゆかりの地をめぐりながら、辿ってみました。
 

ペリー提督

嘉永6(1853)年、浦賀沖に現われたアメリカの艦隊は、蒸気機関で動く船であったことから、煙をあげていました。このことから、当時の人々は黒船と呼び、黒船来航は日本列島に衝撃をあたえました。
初めは浦賀に来航したペリー一行は、久里浜にて親書を渡し、その後横浜にて日米和親条約を締結しました。 この条約により、最初の開港地となったのが、下田と函館です。それによって、両国の交渉の場所は下田へと移りました。
このことが、後にお吉の運命を変えることになるのです。

※写真は下田のペリー上陸地に立つ、ペリー像

ペリーが下田へ現われたのが、嘉永7(1854)年3月、日米和親条約締結直後のことでした。その時、アメリカへの渡航を計った吉田松陰は、小舟でペリー艦隊のポーハタン号へと漕ぎつけ、ペリーに渡米を嘆願しましたが、断られ、拘禁されます。
最初に拘禁されたのが、右の長命寺(廃寺)で、その後平滑の獄へと移されました。今は開国博物館の駐車場になっています。博物館内には当時の獄舎が再現されています。

了仙寺そして、日本とアメリカの交渉の場となったのが、了仙寺です。日米和親条約締結後、日本における総領事となったハリスが、その後のアメリカ側の代 表となり、翌年この寺で下田条約が結ばれることになります。下田条約締結後は玉泉寺同様、了仙寺もアメリカ人たちの休息所として利用されたようです。

また、 了仙寺の裏手には洞穴古墳もあります。(左写真)


唐人お吉の籠ハリスは、ペリーが下田に上陸したときにアメリカ人の休憩所・墓所とされていた玉泉寺をアメリカ総領事館として、そこで生活を始めました。
このときに、日本の女性を要求し、奉行所に選ばれたのが当時、新内明烏と言われ、下田随一の美人芸妓であったお吉と云われています。
お吉は、当時17歳。大工の鶴松という許婚もおりましたが、鶴松を武士に取り立てるという約束で、ハリスに奉公することに承諾しました。
お吉は、献身的にハリスに尽くしましたが、腫れ物ができたことを理由に、後に解雇されます。
※写真はその時、玉泉寺へとお吉が運ばれた籠と伝えられているもので、了仙寺に展示されています。


安直楼 ハリスに解雇されたお吉は、大金をもらいうけますが、周りの人からは「唐人お吉」、「ラシャメンお吉」と蔑まれ、一時下田を離れます。そして、横浜で許婚の鶴松と再会し、下田へ戻って髪結いの店を始めます。鶴松とも結婚し、店も唐人髷を結う店として、一時はうまく行っていましたが、やがて夫婦関係もお店もうまく行かなくなり、離婚し、店も潰れてしまいます。そして芸妓に戻ったお吉ですが、40歳を過ぎた頃に、安直楼という小料理屋を始めます(左写真)。しかし、こちらも2年で廃業に追い込まれてしまいます。原因はお吉の酒乱であったということです。
晩年は酒で体も悪くし、物乞いなどをしながら、失意の内に暮らしたといわれています。
お吉地蔵

明治24(1891)年3月27日、お吉は下田の町から稲生沢川を5キロほど上ったところで、豪雨の中、身を投げ、その生涯を閉じました。

現在、お吉が身を投げた 門栗ヶ淵には小さな祠が祀られ、年に一度、お吉の命日には、『下田お吉祭り』が行われ、下田の芸者衆を交え、法要が営まれます。

※左は新渡戸稲造寄進のお吉地蔵

お吉ヶ淵

宝福寺

お吉の死後、「ラシャメンお吉」、「唐人お吉」と蔑まれたお吉の亡骸を引き取る者も、葬るお寺もなかったところ、宝福寺の住職が出向いて、自らのお寺に葬ったそうです。
現在もお吉のお墓は宝福寺の境内にあります。
宝福寺のホームページ お吉と言われている写真も見られます。

お吉の享年は49歳であったとも51歳であったとも言われて、はっきりしていません。また、お吉と言われている写真も確実に本人とされるものはないそうです。今まで語られてきたお吉像は、お話の中のお吉です。では、実際のお吉の生涯はどのようなものだったのでしょうか。

実際のお吉は、ハリスのもとに奉公して、わずか3日で解雇されたといわれています。ハリスはその頃、病が重く、日本側に看護婦を要求したのだとも言われています。しかし、お吉は、「ラシャメンお吉」、「唐人お吉」などと町の人々から蔑まれることになります。その背景には、手にした法外なお金に対する嫉妬などがあったのではないかといわれています。また、他にもハリスやヒュースケンスのもとに奉公した女性は何人もいました。その中で、お吉だけがクローズアップされた背景には、その後の郷土史家や作家による影響も大きいと思われます。
ですが、もし下田に黒船が来ていなければ、お吉の人生はまた違ったものであったことは確実であり、時代の大きなうねりに翻弄された悲劇の人であったことには変わりが無いのかもしれません。

お吉の墓
お吉(右)の墓と鶴松の塚

二月堂階段

左は現在のペリーロード。その昔は花街だったそうで、平滑川沿いには、そうした歴史的な建造物が多く、それを利用した雑貨屋さんなどがあり、人気を呼んでいます。

下田の町のところどころには、足湯や手湯が設けられていました。足を入れてみたかったのですが、残念ながらこの日は風が強く、とても寒くて裸足になる勇気が出ませんでした。

足湯
日進堂

左写真は、三島由紀夫氏が下田へ来ると必ず買い求めていたというマドレーヌを売っている日進堂さんです。この商店街には伊豆の踊り子で登場する果物屋さんなど、文豪との関わりの大きさを感じます。
右写真は、その伊豆の踊り子に登場する果物屋さんの前にあった手湯です。手を入れてみたら、とても温かかったです。

温泉

関東に住んでいたせいか、伊豆には数え切れないくらい行っているような気がします。そんな中で、今回訪れた下田は自分の記憶の中にありませんでした。もしかしたら子どもの頃に訪れたのかもしれませんが、自分の中では初めて訪れたような気がしました。お吉さんについては、謎が多く、真相はわかっていません。川で遺体が発見されたのも自殺ではなく、事故だったという説もあります。一度、下田に足を運んで、幕末に、そしてお吉さんに思いを馳せてみてはいかがでしょうか。私も今度は『唐人物語(ラシャメンのうた)』に出てくる桜の季節に訪れてみたいと思います。

-下田をもっと知りたい人のためのリンクです-
下田市   ☆下田市観光協会   ☆了仙寺   ☆宝福寺    ☆玉泉寺


今回の特集は、ウィンズ事業部のスタッフとらさんです。
とらさんのプロフィール
ウィンズ事業部のスタッフです。子供の頃から旅が好きで、色んなところを旅しています。だけど、飛行機は苦手なので、ほとんどが国内らしい・・・。そんなとらさんの日常や旅先の写真、グルメなどをつづった写真ブログ展開中です。
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